帰国日である。朝八時に旅社を出て、向かう先はガイドブックに載っているところの屋台街・呉広路。ここの小楊生煎館の出す「生煎ションチエン」は行列並んででも食べろとあったので、行ってみようと思う。昨日とは違う路線だが、地下鉄に乗り二駅行って降りればよい。ガイドブックを見ながら歩けば、迷うことは無い。

生煎はカリカリに焼いた小龍包みたいな感じで、四つで四元だったと思う。朝早かったし、雨降りだったので、ほとんど並ばずに買えたのは幸運だった。カリカリの皮の中は溢れんほどの肉汁で満ちている。これが酢醤油とからまって抜群にうまい。

 舌も焼けよと、ほとばしる肉汁。

ここだけしか食べられない一品だそうだ。焼きたてがよい。

他にもいろいろな小吃を食べて、それでも時刻はまだ九時。旅社を目指し、のんびり歩いて帰ることにしよう。

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「ん~、ここはアレだぜー。なんか見覚えがあるぜー」

 見覚えがあったのは、そこが二週間前に訪れた上海博物館の近くだったからだ。気付かぬうちに周辺を通っていた。

 上海博物館。まだ見てないところがいくつかある。僕は時計をとりだして見た。

「んま、タダだしねー」

 タダより安いものはない、と、どっかの海賊も言ってた。

 ついでに博物館に寄って行くことに決める。

 今日も今日とて上海博物館はタダで、前回は準備中だったオリンピック記念の特別展示も公開されていた。古代オリンピアの遺物や、オリンピックの歴代金メダルとかが並んでいる。

あとは、見ていなかった書画のコーナーとかをじっくりと堪能した。廻りきるのに数日かかる膨大な文物の数々。最高だ。むしろここに住みたい。永住したい。

時計と相談して、そろそろ帰ったほうがよいと判断。帰りに南京東路というデパート街を通り、牛骨製の箸のセットをお土産に買った。

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午後十二時ジャスト。旅社を出て、空港へ向かう。出発は五時を過ぎるので、今から行っても暇なばかりだが、これでいいのである。旅は何が起こるかわからないから。特に僕の場合は。ゆえに行動は常に最悪の事態を想定し、行われるべきである。そして現実はいつもその少しななめ上をいく。

地下鉄に乗って龍陽路へ。リニアモーターカーのある駅である。

リニアモーターカーに乗ってもいいが、リニア自体一度乗ればもう十分って代物だし、なにより運賃が高い。上海市内と国際空港を結ぶシャトルバスを利用しようと思う。

旅慣れるということ、それは旅自体順調になるけどハプニングが少なくなることを意味する。だから空港にはあまりにも面白みに欠ける順調さで到着した。途中、リニアとすれ違った。一秒たたずに視界から消えた。

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チェックインして、スーツケースを預けて、X線検査に荷物をくぐらせ、パスポートに判を押してもらい、退屈に待ち時間を過ごして五時三十分。守護天使がついているのではないかと思うくらい何のトラブルも無く飛行機は飛び立つ。そして一時間半後には僕はただの日本人に戻る。

というわけで、今回はこの辺で終わりにしよう。良い旅だった。それはためになったとかそういうことじゃなくて、単純に楽しい旅だったからだ。

楽しいとそう思えたなら、アナタの旅は成功である。

                           おしまい。